2023年3月にスクエニから新規IPとして発売された、ポイント&クリック形式のホラーADV。ローンチから定価2000円という廉価で発売されている。ゲームの性質上、ネタバレはゲームの体験を著しく損ねるため、ストーリーの詳細には触れずにレビューする。
開発元 | パブリッシャー | リリース日 |
SQUARE ENIX | SQUARE ENIX | 2023/3/9 |
ノベルゲームに”操作の恐怖”を加えた新体験
ホラーゲームに於いて、”後ろを振り向く”などの操作は独特の恐怖感をプレイヤーに与えるものだ。ノベルホラーではこのような体験を取り込むことは難しいのだが、本作では全天球背景という独自のシステムによって、”操作の恐怖”をプレイヤーに与えている。その名の通り全天球カメラで撮られたような画像で背景がつくられており、プレイヤーは360度周りを見渡すことができる。
ただし、このカメラを使ったギミックは作中にほんの少ししかなく、もっと”後ろを振り向く恐怖”を全編にわたって味合わせて欲しかったなという残念感がある。
BGM/アートワーク/演出の素晴らしさ
本作は、2000円という廉価で販売されていることが信じられないぐらい、非常にコストがかかっている作品だ。エンディングまでプレイしてみるとわかるが、本作のBGMは信じられない量の曲が収録されており、作曲も素晴らしく、なんと打ち込みではなく生音の録音だ。特に気になった曲をいくつか紹介したい。
先ず、オープニングから流れる案内人のテーマ曲だ。これは、ゲームの導入として素晴らしい仕事をしており、本作で最も優れた曲だ。ピンク・フロイドの『Time』を彷彿とさせるような、柱時計の音をモチーフにしたワルツなのだが。クラリネットが奏でるダウナーなテーマの裏で1音だけきらりと光るピアノのアクセントが非常におしゃれな曲だ。
そしてもう一曲面白い曲が、刑事のテーマ曲だ。日本の刑事ドラマのテーマ曲をモチーフに作曲されており、トランペットとギターが奏でるメインテーマは『太陽に吠えろ』をを強くイメージさせる。
アートワークに関しては唯一無二の物ではないが、ブラウン管風のメニュー画面など、世界観を非常に大事にゲームをつくっている印象だ。
演出に関してはネタバレになるのであまり語らないが、本作でもっとも評価できる部分だ。特に序章でのプレイヤーを驚かせる演出は一級品であり、序章だけでもこのゲームは大いにプレイする価値のあるものだ。
至って平凡なストーリーやギミック
本作で唯一残念な点だ。上記演出の良さから、プロローグ〜一章あたりは非常に引きが強いのだが、ストーリー全体に意外性がなく、伏線を張りすぎているせいでストーリーの先が読めすぎる。ミスリードっぽいものは本当にミスリードだし、黒幕っぽい人は本当に黒幕だった。インパクトのある演出も、使いまわしされるため、初見時のインパクトはゲーム終了までは持たない。
また、ゲームプレイ中にいくつかギミックがあるのだが、数年前からの流行りものを取り込んでいるだけで、本作で独自性のあるものはない。
総評
演出やBGMなど素晴らしい点がいくつもあり、スクエニがものすごく力を入れて作っているなという、情熱を感じる作品だ。しかし、ノベルゲームとして一番重要な”ストーリー”が微妙であるため評価がしずらいところ。問答無用でおすすめできるノベルゲームであることは間違いない。
- ホラーの恐怖感を強める全天球システム
- 見ごたえのある強烈な画面演出
- BGMが豊富で、どれも素晴らしい
- 値段に対しての満足度の高さ
- 強烈な演出のわりに、ストレートでひねりの無いストーリー
- 全天球背景のシステムを活かしきれていない
- 全体的なホラー要素の薄さ
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